外に出ること。誰かと話すこと。見た目を整えること。
どれも、かつての私には縁遠いものでした。
今回は、そんな私がはじめてひとりで美容室に行った日のことを、素直に書いてみます。
私は10代の頃から人と接するのが怖くなり、社交不安障害(対人恐怖症)を発症し、ひきこもりになりました。
美容室どころか、外に出ることすらままならない日々が続きました。
髪は自分で切ったり、家族に頼んだりして、なんとか最低限の見た目を保っていました。
少し元気が出てきたときには、家族と一緒に1000円カットに行ったこともあります。
でも、それですら心臓がバクバクするほど緊張して、頻度はとても少なかったです。
自分で予約? 初対面の人に髪型の希望を伝える? 切ってる間に雑談?
無理無理、絶対無理。
そう思って、美容室という場所をずっと避けてきました。
そんな私でしたが、だんだんと外との関わりを持つようになっていきました。
福祉施設に通い、知らない方と話す会に参加し、ネットで友達をつくって…
そんななかで、ほんの少しずつですが、自信が芽生えてきたのです。
「ひとりで美容室に行ってみたい」
そう思うようになったきっかけのひとつは、このサイト「すだちえ」の存在でした。
「記事のいい題材になるし」と思えたこと、そして友人が「美容室についての記事読みたい!」と言ってくれたこと。
それが、私の背中を押してくれました。
そして「ひとりで美容室に行く」という挑戦は、私にとって必要なものでした。
おばさんになっても家族に付き添ってもらうの? そんなの恥ずかしい。
それに、家族だっていつまでも元気でいてくれるとは限らない。
1000円カットの髪型もいいけど、新しく出会う人にいい印象を持ってもらいたい。
そのためには、ちゃんとした美容室で、おしゃれな髪型にしてみたい。
そうして、私はひとりで美容室に行くことを決めました。
最初にしたことは、いつも通っているメンタルのカウンセリングで
「今度美容室に行くのが不安なんです」
と相談することでした。
「何が不安なの?」
「お店で間違った行動をしちゃうんじゃないかなって…」
「間違った行動って?」
「えーと…例えば、お金を払うのが本当は最後なのに最初にお金を出しちゃうとか」
「そうするとどうなるの?」
「……恥ずかしい!って私は感じると思うけど、別に大したことじゃないかも」
「そうだよね。店員さんは気にしないと思うよ」
気持ちの整理ができ、落ち着くことができました。
そして美容室選び。
サイトはホットペッパービューティーを利用しました。
現在地から近くを検索すると、美容室がずらっと並びます。
これはどう選べばいいんだ…?
どれもおしゃれなことはわかりますが、何を決め手に選べばいいかさっぱりわかりません。
なんとなくの思い付きで「人見知り」のワードで検索してみます。
「人見知りでも大丈夫!」みたいな触れ込みが書いてあるところとかないかな…
すると何件かヒットしました。
雰囲気がよさそうなお店を見てみます。
どうやらお店のブログにスタイリストさんが「自分は人見知り」ということを書いていたのが検索にひっかかったようでした。
想定とは違ったけど、同じ人見知りなら私の気持ちも理解してくれるかも…?
口コミも評判良いし、「スタイリストさんが優しい」ってあるのもいいな。
スタイリストさんが1人だけなのも、周りがガヤガヤせず落ち着いて切ってもらえそうでいいかも…
よし、ここにしよう!
予約の画面に移ります。
日時を指定し、要望を書きました。カタログの写真を選んで添付し、以下のことを記入しました。
「ボブヘアにしたいです。
特に髪型へのこだわりはありませんので、写真はざっくり参考にしていただくだけで大丈夫です。
以下のポイントを重視してカットしていただけると嬉しいです。
・スタイリングが楽
・伸びても変にならない
首の感覚が過敏なため、タオルや布などが首に当たるのが苦手です。
できれば首元のタオルなどはゆるくしていただきたいです。」
そうして、わたわたしながらも予約を完了させました。
当日、緊張でドキドキしながらも、すこしだけワクワクする気持ちもありました。
家を出る直前で「そういえばメイクした方がいいのでは!?」と気付いて大慌てでしたメイクと、持っている中でいちばんおしゃれな服で出かけます。
予約の10分前、少し早く着きすぎたかな?と思いつつ、ちらっと店内を見ると、中には誰もいないようでした。
おそるおそるドアを開くと、スタイリストさんが店の奥から出てきてました。
「こんにちは~」
「こんにちは…
〇時に予約した〇〇です」
「はい~
よければお荷物ロッカーにどうぞ」
「こちら(椅子)へどうぞ」
緊張でひええ…となりつつも、スタイリストさんが案内してくれるので、心配していた「間違えた行動をしてしまう」ということはありませんでした。
予約時に書いた要望を確認してもらいつつ、髪型についてスタイリストさんと相談していきます。
ちなみに、髪を切っている途中にも何度か相談が入ります。
私はついボーっとして話を聞きそびれてしまうタイプなので、ここは気を付けなければならないポイントでした。(1度だけボーっとして適当に返事をしてしまった。反省…)
前髪についての相談のとき、無いと思っていた自分の「こだわり」のようなものが見つかりました。
「前髪が横の髪と同化?しちゃうのが嫌なんです」
「ああ、なるほど!でしたら…」
はじめて言語化した、ぼんやりとした要望を汲み取って、アドバイスをいただき、感動しました。
「前髪の横はレイヤー入れますか?」
(???れいやー…?さっぱり意味がわからない…ここは素直に聞こう)
「レイヤーって何ですか…?」
「レイヤーというのは…」
初歩的な質問にも丁寧にわかりやすく答えてくださいました。
重要なポイントだったなと後で思ったので、恥ずかしがらず聞いてよかったです。
本当は髪型についての相談が終わると洗髪が始まるのですが、「首にものが当たるのが苦手」と事前に書いていたのを汲み取ってくださって、洗髪を省略していただきました。ありがたい…
代わりに霧吹きで髪を濡らし、カットが始まります。
おしゃべりの練習になるかな?と思い、あえて「会話したくない」ということは書かないでいました。
「普段はどういう要望で切ってもらっているんですか?」
「あの…えっと…」
(今求められてるのって”ちゃんとした美容室での要望”だよね!?そんなのわかんない!ここは正直に言おう…)
「いつも家族に切ってもらったり1000円カットで切ったりしていて…適当なんです…」
「ああ、そうなんですね!ご家族に美容師さんがいるんですか?」
「いや、完全に素人で…」
(…ここはもう自己開示しちゃおう。ええいままよ!)
「私、ずっとひきこもりだったんです。だから美容室に行けなくて」
「あ、そうだったんですね!」
「社交不安障害っていう病気で、人と接するのが怖くて…」
「今はどういう状況なんですか?」
「バリバリ外で活動できてるわけではないですけど、少しずつ外に出て人と交流するのを増やしたりしています」
「えっ…すごいじゃないですか!」
(ほ…褒められた!?嬉しい……!!)
「だって、引きこもっているほうが楽なわけですよね?怖くないし!
それなのに外に出て活動してるって、すごいですよ!」
(な、なんて理解があって優しいスタイリストさんなんだ…!)
いたく感動しつつ、その後も楽しく会話しました。
すだちえのことも話すと「いいですね!」とまた沢山褒めていただきました。
そして、お店のオーナーさんが障害福祉に携わっていることを教えてくださいました。
「知的や精神に障害を持った方が気軽に来れるお店になってほしい」と考えているそうです。
なんて偶然…というか運命…!?なんて思いつつ、このお店に出会えて本当にラッキーだなあとじんわりしました。
髪を切り終え、スタイリングしてもらい、鏡を見ます。
そこには、すっきりした表情の自分が映っていました。
おしゃれな髪型かどうかは、正直よくわからない。
でも、気に入りました。
そして、「ちゃんと美容室に来て、切ってもらったんだ」という実感が、私のなかで小さな自信になっていました。
不安だった会計も、スタイリストさんの案内で自然にできました。
帰り際、「楽しかったです」とスタイリストさんに言ってもらえました。
よかった……嬉しい……はずなのに!
心の中でもやもやと不安が浮かび上がってきます。
ちゃんとうまく話せてたかな。不快にさせてたらどうしよう。
気にする必要なんてないとわかっていても、ぼんやりした霧のように湧き上がってくる。
これはもう私の「癖」で、どうしようもないものだと理解しました。
こういうときは…
ごほうびを買おう!!
ハッピーエンディングのファンファーレを自分で鳴らす気分で、コンビニでアイスを買いました。
気に入る髪型に切ってもらえたから100点!!!
「楽しかったです」って言ってもらえたから200点!!!
と心の中で唱えながらアイスをぱくぱく食べました。
その後、新しい髪形を見た家族や知人たちに「かわいい!」と言ってもらえました。
勇気を出して美容室に行ってみて、本当によかったと思います。
私が今回行ったお店はこちらです。
紹介の許諾をいただいたので、リンクを載せておきます↓