千葉県にある元ひきこもりスタッフだけで運営する「カフェ コッソリ」で働く、さちさんにインタビューしました。
お話の中で飛び出したのは「ひきこもっていてよかった」「堂々とひきこもってほしい」という意外な言葉。
その真意を、じっくりお聞きしました。
―― ひきこもるようになった背景や、きっかけがあれば、話していただけますか?
まず、21歳の時に精神疾患の診断を受けました。
診断を受ける前の、10代の頃から摂食障害でご飯がうまく食べれなかったり、リストカットしたりしていたんですが、なんとか大学3年生にはなれていて、そのときに宣告されたんです。
私の実家の考え方が「小学校中学校高校大学出て、実家を離れて一人暮らしして働くのが、親孝行だ」というもので、それをずっと言われていて。私もバリバリのキャリアウーマンになるのが夢でした。
でも精神疾患になったときに、たまたまかかったお医者さんから
「一生普通には働けないし、一生薬を飲み続けなきゃいけないし、何だったら両親にずっと面倒みてもらわなきゃいけない病気なんだ」
という説明を、両親と一緒にされたんです。
「終わった」と絶望しました。「恥ずかしい存在になっちゃった」「自分はもう価値がない人間としてこれから生きていかないといけないんだ」という思いが強くて。
それがきっかけでひきこもるようになりました。
「自分は恥ずかしい存在だから外に出ちゃいけないんじゃないかな」とか、「周りからも“恥ずかしい人”とか“働けない人”とか“病気の人”って見られてるんだろうな」という思考があったので、ずっとひきこもっていて。
ちょっと頑張って外に出てみても、失敗したり、ちっちゃいトラブルがあったときに「やっぱりダメだ」と思って、またひきこもり生活に戻って…という感じでした。
―― ひきこもりの頃はどんな生活をしていましたか?
先ほども言ったように「自分は無価値だ」と思っていたので、カーテンを閉め切って、冷暖房を使わないで過ごしていました。
ご飯もほとんど食べず、「食べなさい」と言われたものだけは食べるという感じでした。でも、それすらも申し訳なかったです。
ずうっとただただ時間が過ぎていくのを待っているという感じでした。
あとは、ひきこもっている間に間に同棲したり結婚したりというステージもありました。
そのときは「働いていないから頑張って家事やらなきゃ」と思い、頓服の薬を飲んで3時間ぐらい家事をバーっと、やりすぎるぐらいやってしまって、疲れてパタン、と倒れる、という生活をしてました。
―― ひきこもりだった頃、自分の将来についてどんな風に考えていましたか?
読者さんにどういう風に響いてしまうか、わからないですが…
「死ななきゃならない」と思っていました。
いつかは絶対に死ななきゃならない、自分は生きてたらダメな人間だってずっと思っていたので「どうやって死のう」「どうやったら早く死ねるんだろう」って、将来の事はそれだけ考えていました。
周りの人たち…親や旦那さんなども助けてくれていましたが、感謝するというのはあまりなくて。
きっとみんな私がかわいそうだからやってくれてるんだろうって思ってしまっていました。
それも私がいなくなりさえすれば、やっぱりみんな楽になるだろうって思って。
だから早くいなくなりたいなって、将来のことはただひたすらそれを願っていました。
―― 今のお仕事の内容を簡単にでいいのでご説明していただけますか?
カフェで、接客をメインに配膳やお会計などのホール仕事をしています。
最初にお客さんと対面するので、「お客さんが今日なんで来たのかな」とか「お客さんはどういう感じなのかな」というのを最初に汲み取れる存在なので、そこを大事にしながら接客しています。
あとはのんちゃん(店長)とか、なびさん(副店長)のお仕事のサポートをしています。
―― ひきこもりだった状態から今のお仕事をするまでの経緯を教えてください。
32歳まで、1人で外出することができませんでした。
32歳になってから、1人で外出して1人で帰るという挑戦をして。その通うところがララホーム(福祉事業所)だったんですけれど。
次にララホームで普通に1日過ごす、という挑戦をして。
ララホームでうまく過ごせるようになってきたので、今度はお仕事をしてみる。お仕事の場では私の病気のことを言わなかったので、みんなバシバシいろんなことを言ってきたり、いろんなことがある中で、どういうふうにうまく過ごせるか、という挑戦でした。
それが終わってから、今度は家で、自分のペースでゆっくり家事をしたり、ゆっくり楽しいことをしたり、という挑戦をしてきました。
これらの挑戦をするときに共通していたのは、薬に頼る癖です。
何か困ったり不安になったり、人が気になったり、もやもやしたりしたら、すぐに薬。常用薬、プラスアルファの薬を飲む癖がありました。
最初にララホームに行くときも頓服の薬を飲んだり、仕事をして負荷がかかったらまた薬が飲みたくなったり…
ですが、挑戦の中で薬に頼らずにやっていけるようになりました。
自分の「気持ちの切り替え」をどう上手くやるか、というのを人とのコミュニケーションなどを通じて学んだことで、穏やかに生活できるようになったんです。
落ち着いて趣味のことも楽しめるようになりましたし、頓服のことも考えずに過ごせるようになっていきました。
するとだんだん「私、頑張ってるな」「私、良くなってきてるな」と実感できたんです。
それは一人でできたことではなく、周りの支えあってのことでした。
そこから「周りに感謝したいな」とか「周りに恩返しできたらいいな」という気持ちが芽生えてきて。
そんなときにカフェコッソリ(さちさんが働くカフェ)が開くという話を聞いたんです。
お店で私が働いている姿で、恩返しできたらいいなと思って、私からお店のオーナー(ララホームの理事長でもある方)に声をかけました。
お店が開くずっと前から、のんちゃん(当時はララホームスタッフ)からカフェの話を聞いていて。「応援したい!」「関わりたい!」と言っていたんです。
でもずっと、私が関わるということにあまりいい反応をされなくて。
「まあ、そうだよな」と思っていたら、ある日突然声がかかりました。
それで「ぜひお願いします!」と言って、今に至ります。
―― 苦手な事(たとえば対人恐怖など)とどのように向き合い、克服していきましたか?
いろいろ行動療法とかも試したんですが、あんまりうまくいかなくて。
カウンセリングを受けたりいろいろした中で、これでうまくいくなと思ったことがあります。
苦手があったとして、まずその苦手を自分で、素直に苦手だって認める。
その苦手に言い訳をしない。
病気だからできないとか、過去にこういうことあったからこういうのが苦手とか、言い訳せずに「今の私は苦手」だと認める。
そして、周りにも「こういうのが苦手です」って言っていく。
そうすると、「それだったら自分がやるよ」って言ってくれる人もいたりして、別に今、克服しなくてもいい時もあって。それでそんなに悩まなくてもいい時もあります。
でもやっぱり克服したいって思う自分がいたら、それに対しても「自分が克服したいって思ったんだよね」としっかり確認する。
「誰かに言われたから克服する」だと、うまくいかなかったとき誰かのせいにしてしまうと思うんです。
だから「自分で決めたことだよね」というのをちゃんと自分の中でそらさない。
まあ、何度もそれそうになるんですけど(笑)それそうになっても「いやでも自分がやろうって思ったんじゃん」って思いながら、克服していって。
それで、克服するときも「この苦手を克服中です」というのをできるだけ多くの人に言う。
そうすると、だんだん言い訳できなくなるんです。「克服中でしょ」ってみんなにも言われるから。手伝ってもくれなくなるし。
「うーっ」ってなるけど、でも「自分がそう言ったんだよな」って。
で、うまくいかないこともすごくたくさんある。
なんでもかんでもうまくはいかなくて、やっぱり苦手なまんま終わったっていう時もあります。
でも、本気で向きあっていると、その過程が別のとこで活きてきたりするんです。
「こういうことでうまくいかなかったぞ」っていう経験が自分の学びになる。
だから、うまくいかなかったことも価値があるものになるんです。
「ほんとに上手くいかなかった、もう今は諦めよう」ってなるのも、ありなんです。
また挑戦するかもしれないけど、今はやっぱり苦手だから無理だった、って手放す。
「上手くいかなくて、手放した」っていうのも、周りの人にちゃんと言う。
そうやって開示していくうちに、自分の気持ちを離せるようになったり、自分の中でグルグルしてたものを表に出すのが怖くなくなってきたりして。
そういうのが全部いろんなことを克服する鍵になっているのかなって思います。
―― 今までの人生で、一番「してよかった」と思う行動はなんですか?
考えてみたんですが、意外にも「ひきこもってよかった」と思っていて。
というのも、ひきこもっている間に何度も「自殺しよう」と行動したりしていたんです。
だけど、結局ひきこもっていたので、うまくいかないことが多かった。
だからひきこもっていたおかげで命を守れたなって思っているんです。
生きていなかったら今の自分は絶対いないですし。
それともう一つ「推し活」はしてよかったと思います。
実在する人の推し活をするのは40代になって初めてだったんです。
「推しに元気で会いたい」「自分を大事にしよう」と思えるようになりました。
同じ推し友と会ったりするのもすごく楽しくて、共通の趣味があるとすごく外まで出かけられたんです。
―― 今までの人生で、特に支えになったものはなんですか?
一緒に頑張っている仲間と、家族だと思います。
仲間というのは、ララホームの仲間や、仕事の仲間。
家族は、親や旦那さん。
それと、案外旦那さんの親だったりとか、おばあちゃんとかの、ちょっと俯瞰して見てくれる親戚みたいな感じの存在も大きかったです。
身近にいる、自分のことを分かってくれている存在が支えでした。
―― 過去の自分に声をかけるとしたら、どんな言葉をかけたいですか?
「命を守ってくれてありがとう」って言いたいですね。
私も人生の途中で何人か、同じ病気で自殺して亡くなっちゃった友人とかがいて。一緒に歳はとれなかったので。
それを考えると「生きててくれてありがとう」って自分に思います。
一生懸命、引きこもって、一生懸命、命を守っていてくれたから、今いろんなことができたり、いろんな人と会えたりしているから。
何歳からでもやり直せることはいっぱいあるっていうのもその時は全然分からなかったから、早く死にたかったけれど、死なないでくれてありがとうって、過去の自分に言いたいです。
―― 同じようにひきこもりで悩んでいる人に伝えたいことはありますか?
「ひきこもっていることを悪いことだと思わないでほしい」というのを一番伝えたいです。
自分の良い悪いって自分が決めることなので、周りにいろんなこと言われるかもしれないけれど、堂々と引きこもっていてほしいなと思います。
それで、もしもですけど「現状を変えたいな」とか「ひきこもるのなんとなく嫌になってきたな」とか、本当に自分で思ったら、そこから先はきっと、変化する時なんじゃないかなと思います。
ただ、私も経験したけど、変化するのってめっちゃ怖いし、めちゃくちゃ辛いし、もう嫌なことばかり続いてる気がするから、すごく大変だと思うんですけれど。
でももし変化しようって思ったんだとしたら、ぜひ本気で変化してみてください。
で、また戻ってもいいと思うから、ひきこもりに。
全然戻ってもいいと思います。
だから一度本気でやってみるのも面白いかもしれない。
で、その途中に「カフェコッソリに来よう」とか「ここに来て誰かと話してみよう」とか「話せなくてもコーヒー1杯飲んでみよう」とか「おいしいご飯食べてみよう」って、そういう目的がここにあればいいなと思います。
遠くて来れない人もたくさんいると思うので、そういう方には、何か行動を起こした時に周りにいる人を大事にしてもらえたら、ということを伝えたいです。
でも全然、堂々とひきこもってていいって私は伝えたいです。
私はひきこもってたおかげで本当に命が守れたので、無理しなくていいって思います。